Report of the Diagnosis Subcommittee
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Alan Tomlinson 1 Anthony J. Bron, 2 Donald R. Korb, 3 Shiro Amano, 4 Jerry R. Paugh, 5 E. Ian Pearce, 1 Richard Yee, 6 Norihiko Yokoi, 7 Reiko Arita, 8 and Murat Dogru 9

B. MGD 関連疾患について専門施設内で行なう診断

「理想的」すなわち包括的な検査シリーズが、角膜専門家または臨床試験に従事する研究者に対して提唱されている。この研究者は臨床試験 ではさらに幅広い診断装置を利用できる。列挙された検査の一部は選択的である。診断は二段階で行なうことが再度示唆される。まず一般ドライアイを診断し、 それから MGD の分類によってサブタイプに分ける。

この検査シリーズは、症状の評価(付録 1 、例、 OSDI 146 、 DEQ 147 )、涙液の浸透圧測定(付録 15 )、涙液分泌検査(フルオロフォトメトリーまたはフルオレセインクリアランス速度、付録 13 )、眼内涙液貯留量測定(フルオロフォトメトリーおよびメニスコメトリー、付録 14 )、安定性試験( TFBUT または非侵襲性 TBUT 、付録 2 、または干渉測定法、付録 10 )、涙液蒸発測定(涙液蒸発速度測定装置、付録 11 )からなる。角膜および結膜染色などの眼表面障害検査(付録 4 )も、この検査シリーズに含まれている( Table 9 )。炎症メディエイター、および炎症細胞マーカーの有無に関する検査、ならびに他のプロテオミクス質量分析およびリピドミクス質量分析(付録 12 )も、眼表面の全般的な炎症状態に関する情報を提供するために評価可能である。ただし MGD への特異的な結びつきについては現時点では明らかではない。涙液減少型ドライアイの診断に対して、涙液産生を特異的に測定すること(付録 3 )も推奨される。

MGD およびドライアイを含む MGD 関連疾患に関する重症度スケール

患者にとっての疾患の負担、治療法の有効性、予後への影響を評価するためには疾患の重症度を理解することが不可欠である(付録 5 ~ 7 )。重症度レベルを疾患に割り当てることは困難である。これはその疾患の複雑な状態を構成する種々の要素に異なった重みがあり、疾患の進行に伴い並行して 変化しない可能性があるためである。本委員会は、 MGD および関連する疾患の重症度格付けの作成について報告するには、この種の情報はまだ利用可能ではないと認識している。しかし、以下に示すように、今後評価 が可能となるフレームワークを暫定的に示すことが重要であると考えられた。

本章の序文で、 MGD はそれ自体が症候性疾患であり、眼表面障害を引き起こす疾患であり、蒸発亢進型ドライアイを引き起こした後、眼表面障害を引き起こす可能性のある疾患であ ることを示唆した。このような疾患構成要素が別々の速度で進行することがあるため、 MGD と MGD 関連疾患については、症状を両者の間のつなぎとして用いて、別々の重症度レベルが割り当てられている。

上記のパラメーターに関する重症度レベルを Table 9 および 10 に示す。治療的側面については簡単に触れており、さらに十分な説明は、管理と治療法に関する分科委員会の報告の中で述べている。

全般的な推奨事項  診断に関する分科委員会の推奨事項は以下の通りであり、 Table 11 に要約する。

MGD はよく見られる疾患であり、無症候性あるいは症状を生じる可能性もあるが、いずれの場合も患部である眼瞼に限局され、蒸発亢進型ドライアイなどの MGD 関連眼表面疾患から発症する。また、涙液減少型ドライアイを悪化させる可能性もある。

MGD の自然経過は正確には知られていない。実際には、進行性であるが治療可能な疾患とみなすべきであり、治療によって不可逆的変化を防ぐ可能性がある。治療という方法は、情報がさらに入手できるにしたがって変更が可能であるため安全な方法である。

治療は診断に基づき、治療法の決定は疾患の重症度によって決まる。単純な診断は容易であるが、 MGD の程度と重症度の定量化は治療の基本となるものであり、さらに複雑である。

症候性の患者では二段階の診断方法が推奨される。マイボーム腺機能は、眼瞼の形態、腺脱落、マイバムの圧出性、 TFLL の外観、涙液の蒸発に基づいて評価される。ドライアイの診断は、涙液の産生とクリアランス、涙液浸透圧、および涙液層の安定性の測定、ならびに組織染色に よる眼表面変化の存在によって確定され、さらに、炎症バイオマーカーの存在によって特徴が明らかになる。眼表面疾患の症状のある患者は、眼表面障害、およ びドライアイの涙液動力学的特性の異常な点について評価する必要がある( Table 8 )。

MGD の定量化は、マイバムの質と圧出性の分類に基づいている。 MGD の存在が普通以上である場合に治療を開始する際は、そのスコアを記録し、経過観察時にも定期的に繰り返し記録すべきである。上下眼瞼、中央部と鼻側の眼瞼 の領域の圧出によって算出される合計スコアは、治療に対する反応性をモニターする方法として考慮すべきである。さらに、圧出の新たな定量化方法により、将 来的にはさらに正確に分類できる可能性がある。

このような分類方法は、重症疾患と軽症疾患を区別するために用いられてきたが、その再現性は不明であるため、疾患の重症度のわずかな変 化を示す数値は明らかになっていない。マイボーム腺の脱落が MGD の重症度と緊密に関連しているという十分なエビデンスが認められている。したがって、腺脱落のベースライン時の測定は、可能であれば、マイボグラフィーを 用いて行なうべきである。ベースライン時の測定値は、臨床試験では層別化の目的で使用することが可能である一方、そういった臨床試験が延長された場合、あ るいは自然経過に関する研究であったり、またはマイボーム腺障害が有害事象として起きる場合は、ベースライン時の測定値を経時的な変化を記録として用いら れるかもしれない。

IV. 付録

検査方法

各レビューアーは診断検査を分析する場合、以下のフォーマットを用いた。

1. 検査を特定する。

2. 使用の理論的根拠を示す。

3. 用いる技術についてそれぞれ十分詳細に説明する。

正常例、 MGD およびドライアイの検査値を、検査の感度と特異性、および推奨または報告された診断カットオフ値と共に可能な限り同定した。発表された論文に検査の診断上 の有効性が記載されている場合は、これらの数値はレビューアーの報告書の中に示された。付録を通じて、 Table 中では、以下の略語が用いられている。 N: 健常者(すなわちドライアイなし)、 DE: ドライアイ、 EDE: 蒸発亢進型ドライアイ、 ADDE: 涙液減少型ドライアイ。



TABLE 9. Staging the Severity of MGD and Individual Clinical Parameters



TABLE 10. Staging the Severity of MGD-Related Ocular Surface Disease



TABLE 11. Assessment of Meibomian Gland Function

付録 1

検査名:症状質問票

さまざまな質問票を用いて、ドライアイの状態に関連した眼の不快症状が評価されている 148-152 。この質問票の有用性に関する広範なレビューは別途発表されている 153, 154 。利用できる質問票は多いが、最も一般的に使用されている質問票は内容が十分一致したものである 155 。

理論的根拠

質問票によって、眼の不快感と関連したさまざまな症状の評価が可能になる。しかし、ドライアイと MGD をはじめとしたさまざまな疾患に通じる共通点があるため 156 、この質問票は、病原学的に異なる疾患の実体を区別することができないようである。このような限界があるにもかかわらず、一部の研究で、 MGD の症状を評価する際の質問票の役割について検討されている。

方法と詳細

MGD (腺の開口部の閉塞と眼瞼縁の末梢血管拡張によって診断される)は症候性の患者の 61.7% に存在することが研究によって示されている 157 。この結果は症候性被験者の 63.6% 158 、 64.6% 159 に MGD の所見を認めた他の研究の結果とほぼ一致する。さらに高い割合の MGD 患者は、症候性のビデオディスプレイユニット( VDU )ユーザーでみられたが( 74.3% )、この結果は研究対象となった集団によるもののようである。興味深いことに、この VDU を使用する集団では、 MGD 患者は、 MGD のエビデンスのない患者よりも重度の症状を示していなかった 160 。発症における MGD の役割に関するさらなるエビデンスは、液状の分泌物を産出できるマイボーム腺の数と症状のスコアの間に統計的に有意な負の相関関係が認められたという所見 からきている 161 。

以上のような研究から、 MGD が眼の不快感のある患者の 60% 以上でみられることは明らかである。現在の質問票は、 MGD と、眼の不快感の他の原因とを区別する能力については、最適化やテストは行なわれていない。確実に MGD であると定義された患者の診断においては、特に症状質問票の感度と特異性を評価するためにさらに研究を行なう必要があることは明らかである。 MGD と他の疾患では症状に共通点があり、 MGD に特徴的な症状はみられないため、質問票は有用ではあるが、 MGD の特性評価と診断では他の方法と組み合わせて使用する必要がある。

興味深いことに、眼表面疾患指数( OSDI )( Allergan Inc., Irvine, CA )は眼表面疾患の全重症度で最近検証され 162 、症状が MGD では異なる可能性があるが、疾患の進行を記録するために OSDI が使用できると仮定することが可能である。眼表面疾患の評点は質問票の全スケールで以下の通りである( 0 ~ 100 )。正常: 0 ~ 12 、軽度: 13 ~ 22 、中等度: 23 ~ 32 、重症: 33 ~ 100 。 7 単位の変化を臨床的に有意として記録する 162 。

付録 2

検査名:フルオレセイン/非侵襲的涙液層破壊時間

涙液層破壊時間は涙液安定性の代替的測定値と考えられている。

理論的根拠

涙液層破壊時間( TBUT )は一般的に、蒸発亢進型ドライアイの診断のための検査とみなされている。しかし、ここで議論されているように、 TBUT 検査は MGD の診断にとって重要である。涙液層が不安定なことは、ドライアイのコアメカニズムの一つであり、起因事象である可能性がある 163 。また、適正な涙液油層などの多くの因子に依存しており 164-171 、次にマイボーム腺機能に依存する 166, 172, 173 。脂質の量と質がマイボーム腺機能とドライアイの状態と相関することを示唆する強固なエビデンスが存在する 165-169, 172-178 。すなわち、 TBUT が減少することは油層の障害とマイボーム腺の機能障害の可能性を示しており、 TBUT が増加することは油層が正常なこととマイボーム腺の機能が十分であることを示唆している 164, 168, 170, 171 。したがって、 TBUT が低い場合は常に、マイボーム腺機能と圧出性を診断および治療を考える上で検討すべきである。

詳細:フルオレセイン涙液層破壊時間

涙液層の安定性は、フルオレセイン涙液層破壊時間( FBUT )試験によって測定される。これは、瞬目後に涙液層が最初に破壊されるまでの時間と定義される 179 。フルオレセインのブレークアップは、蒸発によるフルオレセイン濃度上昇に関係した蛍光の消失により生じている可能性が提唱されている 180 。涙液層破壊時間を測定する従来または通常の方法では、涙液層を染色するためにフルオレセインを用いる( FBUT ) 181-183 。フルオレセインは、市販のフルオレセインを浸み込ませたろ紙(フルオレセイン試験紙)を滅菌生理食塩水で濡らし、下円蓋または眼球結膜にあてることで投 与できる。投与後、患者は、数回瞬目し、眼を動かすように指示される。これは涙液中にフルオレセインを混ぜるためである。細隙灯は、コバルトブルーフィル ター、幅約 4 mm で十分な光線量を用いて観察し、角膜全体を網羅するように光線を端から端へとゆっくり動かす 182, 183 。黄色のバリアフィルターは、蛍光色の涙液層の見え方を良くする 179, 184 。患者には、自然に瞬目するように指示し、その後、涙液層に蛍光が均一になったことを確認して、まっすぐ前を見たまま目を開けておくように指示する。最後 の瞬目の上向きの動きから最初に涙液層が破壊されるかドライスポットが形成するまでの時間を、 FBUT 測定値として記録する。 1 回の試験または連続 3 回の試験の平均が最終値となる 178, 179, 182, 184, 185 。任意に、ビデオカメラを用いて、タイミングを自動化し測定値のマスキングを可能にするために用いる種々の方法で TBUT を記録することが可能である 179, 184 。フルオレセイン試験紙を使う以外の方法としては、調製したフルオレセイン溶液をマイクロピペットで球結膜または結膜に点入する方法である。 2 ~ 5% の濃度で 1 ~ 5 μL の容量が推奨されている 179, 186 ( Welch D, et al. IOVS 2008; 49: ARVO E-Abstract 2485 )。 観察手順は、フルオレセイン試験紙と同じである。

ドライアイに対する臨床検査フローを実施する上で、通常は、 TFBUT を測定し、次にフルオレセイン染色測定を行なう。右眼でこの測定シリーズを完了させ、その後左眼に色素を点入する。この検査フローを実施することには明確 な利点がある。これは、涙液層において色素が希釈されること、および二番目の眼(左眼)の眼表面に色素が拡散して吸収されることを防ぐためである(付録 4 )。

FBUT 検査を実施する方法のバリエーション  涙液層の安定性を定量化した値が認められているにもかかわらず、 FBUT は、不正確で再現性に乏しいと批判されている 186-190 ( Welch D, etal. IOVS 2008; 49: ARVO E-abstract 2485 )。大きいフルオレセイン試験紙には固有の性質があること、および試験紙を濡らして涙液層に当てる標準化された手順がないことによって、涙液層に浸透する 量の制御が難しくなり、結果的にばらつきが生じることになる。濡らした試験紙を点入前に振とうすべきか、あるいは濡らした試験紙を球結膜の上側、下側、耳 側がわもしくは、下眼瞼耳側がわのいずれに当てるべきか、または涙液メニスカスに当てるべきかについては意見が一致していない 169,178,182,185–187 。

FBUT のばらつきの最大の原因は、入れるフルオレセインの量に関係している。 FBUT 測定の信頼性は、 2 μL 以下の 5% フルオレセイン溶液がマイクロピペットで点入される場合、通常の試験紙の方法に比べて高くなる 179, 186 。マイクロピペットを用いることでマイクロリッターレベルの微量のフルオレセインを正確に点入することができるが、調製したフルオレセイン溶液を臨床の場 面で使用するには滅菌する手順が必要であり、このような手順は試験研究では用いられるが、臨床診療では容易に採用できない。さらに FBUT は反射性流涙によって変化し、ピペットの使用は患者の懸念と反射性流涙の原因となることが多い。 FBUT 測定の際に、フルオレセイン量を減らし、知覚と反射性流涙をなくすための新たな方法である、ドライアイ検査( DET; Nomax, Inc., St.Louis, MO )が開発された。この検査は、フルオレセイン容液 1 μL を上眼瞼耳側がわ球結膜から涙液層に点入するものである 184 。 DET は臨床研究または臨床診療で利用可能である 179, 184 。

FBUT 検査の実施に関する推奨事項  マイクロピペットまたは DET 試験紙が試験研究に用いられる。マイクロピペット法は、フルオレセインの量と濃度について標準化すべきである。推奨される量は 5 ~ 1 μL 、濃度については 1 ~ 5% と幅がある 179, 186 。 DET 試験紙によって、 1 μL の量を浸透させる標準化した方法が得られる 185 。

健常眼、ドライアイ、 MGD を呈した眼における FBUT の推定値  MGD のみを呈した患者について特異的なおおよその値は報告されていない。

従来の量でフルオレセインを用いた場合、正常者の FBUT は 10 秒より大きく、ドライアイ患者では 10 秒以下である 179, 191 。微量のフルオレセインを用いた場合、正常者の FBUT は 5 秒より大きく、ドライアイ患者では 5 秒以下である 179, 192 。

感度および特異性 FBUT 検査の感度および特異性はそれぞれ 72% および 62% と報告されている 169 。

方法と詳細:非侵襲的涙液層破壊時間測定

非侵襲的涙液層破壊時間( NIBUT )測定は、画像の歪みおよび/または異常を観察するために、角膜前涙液層の上に、格子または他のパターンを投影して行なう 189 。患者には、まっすぐ前を見て、普通に瞬目するように指示する。瞬目の上向きの動きから瞬目後の画像の最初の変化までの数秒の時間間隔を NIBUT と定義する。 1 回の試験または連続 3 回の試験の平均が最終値となる 178, 179, 182, 184, 185 。任意に、ビデオカメラを用いて、タイミングを自動化する種々の方法で TBUT を記録することが可能である 179 ( Welch D, et al. IOVS 2008; 49: ARVO E-abstract 2485 )。

NIBUT 検査を行なうことで、触覚による反射性流涙が起きる可能性などのようなフルオレセイン投与による涙液層の物理的な障害がなくなる 169, 179, 188, 189 。したがって、 NIBUT は涙液層の安定性を評価する理論上、理想的な方法であると考えられるであろう。これは、フルオレセインによる侵襲的な FBUT 測定の欠点を克服し、より信頼性の高い再現性のある結果を得ることができるためである。 NIBUT 検査で得られる TBUT は、 FBUT で見られる数値よりも有意に大きく 169, 170, 182, 193-195 、これは、投与したフルオレセインの不安定性によるものである。それにもかかわらず、粘液層欠損の診断と、涙液水分欠乏と MGD を区別するための NIBUT 検査の使用を推奨する研究は、 NIBUT 検査が涙液層の安定性評価のために選択される検査として、 FBUT 検査に置き換わるものではないことを示している 169 。

健常眼、ドライアイ、 MGD を呈する眼の NIBUT の推定値 FBUT について、正常範囲は 10 ~ 34 秒 181, 194 であるのに対し、 NIBUT の正常範囲は一般的に 40 ~ 60 秒 193 である。ドライアイについては、 NIBUT は 10 秒以下である 190 。 NIBUT の報告された数値は、研究者と使用された装置によって有意に差があるが、 FBUT よりも NIBUT の方が高い数値であることは変わらない 170, 195 。この 2 つの方法は異なる現象を測定していることが示唆される 169 。 MGD のみを呈した被験者に関して推定値を具体的に報告したものはない。

感度および特異性 NIBUT 検査の感度および特異性はそれぞれ 82% および 86% と報告されている 189 。

付録 3

検査名:シルマー試験( MGD の診断)

シルマー試験は、従来から、推奨時間である 5 分間のテストを実施した際の涙液産生の測定である。ただし、一部の研究では、シルマー試験は、試験時間が短い場合、眼表面の涙液量を測定する場合があることを示している。

理論的根拠

シルマー試験は MGD の直接のテストではないかもしれないが、涙液減少型ドライアイと蒸発亢進型ドライアイを区別する上で有用である。いずれも MGD と合併する可能性がある。 MGD は蒸発亢進型ドライアイの原因因子であるかもしれないが、涙液減少型ドライアイが合併する可能性がある。

方法と詳細

麻酔なしのシルマー試験は患者の眼瞼を閉じたまま行なう十分標準化されたテストである 196 。被験者内、時間的、来院間変動が大きいが、その変動と涙液減少の絶対的低下は、主に、涙腺障害を伴う反射性反応の低下による。カットオフ値が 5.5 mm/5 分未満に設定されている場合、検査の感度と特異性はそれぞれ 85% と 83% である 197 。

現在用いられる診断のカットオフは 5 分間で 5.0 mm 未満であり、その理由はまだ不明確である。カットオフを低下させると、検出率(感度)は低下するが、検査の特異性は増加する 196 。シルマー試験 I 法の再現性は、低い値では(すなわち、より重度の欠乏症において)良好であるようである 198 。 Nichols らの最近の研究では、シルマー試験 I 法、涙液安定性、フルオレセイン染色の間に有意な相関が示された 199 。グレード 1 よりも大きいマイボーム腺疾患( Bron らの方法による 196 )は、試験では、シルマー試験 I 法の結果、涙液メニスカス高、綿糸法、および生体色素による染色との相関はないようであった。 Nichols ら 200 は、シルマー試験 I 法とドライアイ症状の間の相関が不十分である事を報告した。多くの研究から、涙液量については(シルマー試験 I 法の値)、単純性 MGD の患者と健常対照者の間に有意な差はないことが示されており、これは、涙液量のみに基づいて、 MGD 患者と健常者を区別することが難しいことを示唆している 201-204 。 Shimazaki ら 205 と Goto ら 206 は、シルマー試験 I 法のスコアについて、シェーグレン症候群の患者と非シェーグレン症候群ドライアイの患者間で差がないことを見出した。しかし、関連する MGD が存在する結果、より重度の眼表面疾患が生じている。これは、比較的高いフルオレセインおよびローズベンガルの生体染色スコアまたは涙液蒸発量によって特 徴付けられる。 Den ら 207 は、血管拡張、不規則性、 MG 開口部の plugging 、 MCJ の移動を含む、眼瞼縁の変化が加齢と非常に関係しており、シルマー試験 I 法で評価される涙液量スコアが加齢によって低下することを見いだした。シルマー試験値が 5 mm 未満の被験者については、マイボーム腺圧出性グレードが顕著に低下していた。 Arita ら 208 は、シルマー試験 I 法の値とマイボーム腺脱落グレードが加齢に伴って低下することを最近の研究で見いだした。別の研究では、滅菌シルマー試験紙を用いて、健常者( n = 20 )、ドライアイ患者(涙液減少: n = 32 )および MGD 患者( n = 25 )から、眼瞼縁を弱くマッサージした後に、マイボーム腺脂を収集した 209 。マイボーム腺脂肪酸を直接トランスメチル化し、ガスクロマトグラフィー( GC )と GC 質量分光法を用いて分析した。マイボーム腺脂肪酸は、健常者と涙液減少型のドライアイ患者で類似していたが、 MGD 患者では異なっていた。 MGD 患者では、分岐脂肪酸レベルが高く( 29.8% vs 20.2% )、飽和脂肪酸レベルが低く( 9.3% vs 24.6% )、特にパルミチン酸( C16 )とステアリン酸( C18 )が低かった。分岐脂肪酸の増加は、マイボーム腺排出物中のワックス、コレステロールエステル、トリグリセリドの量が比較的大きいことを反映している可能 性がある。マイボーム腺脂肪酸組成と、特にシルマー試験紙を用いて評価した分岐鎖の増加が、マイボーム腺機能不全のマーカーである可能性があると結論づけ られた。この方法論は、経口ミノサイクリン治療による治療効果を反映することも分かっており、 iso-C20 (シルマー試験紙から抽出)が MGD の診断にとって有用なバイオマーカーであることが示唆されている 210 。

検査名:綿糸法

綿糸法( PRT: phenol red test )は、シルマー試験の代わりとなるものとして開発され、患者の涙器系を分析するもう一つの方法である。

理論的根拠

PRT 涙液試験は、患者の涙器系を分析するもう一つの方法である。シルマー涙液試験の欠点である、麻酔下で実施しても生じる、結果のばらつき、再現性の低さ、基礎分泌量を測定できない点等を克服するために開発された。

方法と詳細

PRT 法は、シルマー法とかなり類似しているが、明確な違いもある。糸の感覚がほとんどまたは全くない点で、麻酔が必要ない。検査時間は、シルマー試験では各眼 に 5 分かかるのに対して、 15 秒だけである。この検査は、自然瞬目中に眼瞼を開いたままで実施する。糸の濡れた部分の長さ(ミリメートル)を結果として記録する。検査時間が短く糸の感 覚が最小限であるため、この検査は、下眼瞼結膜嚢に主に存在する残留涙液量を示しているという説が立てられている 211 。カットオフ値を 12 mm とした場合、 PRT の感度と特異性はそれぞれ 56% と 69% である。シルマー試験 I 法との一致が非常に顕著であっても、患者の 32% では一致しない結果がでている。このような涙液分泌機能の 2 つの評価方法は、補完的なものであり、臨床診療で両テストの相関性の理解を深めるために、さらに検討する必要性がある 212 。最近の研究では、シルマー試験と綿糸法の間と、各検査とドライアイの症状の間に一致があまりみられないことが見出された 213 。正常な眼、涙液減少型ドライアイ、非涙液減少型ドライアイを区別するうえでフェノールレッド錦糸の臨床的な実行可能性を決定するために、 Patel ら 214 は、自覚症状、涙液安定性、ローズベンガル染色、シルマー試験、結膜充血、マイボーム腺の開存性と数、ムチン線維の有無、下眼瞼の涙液メニスカスの性状に 基づいて被験者を募集した。これらの検査結果に基づき、被験者を、涙液減少型ドライアイ、非涙液減少型ドライアイ、正常眼に分類した。被験者を無作為化 し、右眼下眼瞼の円蓋に錦糸を挿入し、 120 秒間放置した。平均的な綿糸の濡れ値は、涙液減少型ドライアイ( n = 35 )では 15.5 ± 4.7 mm 、非涙液減少型ドライアイでは 22.7 ± 5 mm 、正常眼( n = 38 )では 19.4 m ± 5 mm であった。涙液減少型ドライアイおよび非涙液減少型ドライアイに関しては、カットオフ値を 20 mm とした場合、計算された感度と特異性は 86% と 83% であった 196, 214 。 Nicholas らにより、 PRT は MGD と相関性がないことが認められた( Bron の方法で分類したグレード 1 以上の MGD 患者における) 199 。この検査は、シルマー試験よりも再現性が低いこともわかっている 198 。再現性が低く、スコアのばらつきが大きいため、発起人の要望で日本のドライアイ診断基準からこの検査は除外された 214 。

付録 4

検査名:眼表面染色

理論的根拠  眼表面障害は、 MGD と合併することがあり、 MKC ではもっとも進行した状態が認められる。この障害については、炎症メディエイターの涙液層中への放出 215, 216 や蒸発亢進型ドライアイのメカニズム 217 を含む種々の病因が提唱されている。このメディエイターの発生源の一つとして、微生物性共生物のリパーゼによって変化するマイボーム性脂質の分解生成物が 挙げられる 218-221 。

眼表面障害は角膜と結膜の染色を分類することで定量化可能である。これは、選択した色素の使用、免疫組織化学、または、インプレッションサ イトロジー試料を用いたフローサイトメトリーと、涙液中の炎症メディエイターの生化学的な直接測定またはマルチプレックスビーズ、マトリックス支援レー ザー脱離イオン化法( MALDI ) -TOF (飛行時間型)およびプロテオミクス法 222-224 によるものである ( Reinoso R, et al. IOVS 2009;50:ARVO E-Abstract 517; Topcu Yilmaz P, et al. IOVS 2009;50:ARVO E-Abstract 3592; Calonge M, et al. IOVS 2009;50:ARVO E-Abstract 2548); Nichols KK, et al. IOVS 2009; 50:ARVO E-Abstract 541 )。

その他の方法には、共焦点顕微鏡がある(付録 8 )。このような技術は、 MGD と他の眼表面疾患の眼表面 phenotype を記録し、疾患の重症度と治療に対する反応を記録する上で有用であるが、これらによって記録される変化は MGD に特異的ではないため、診断において特異的な役割を果たしていない。このような検査の正確性は、 2007 年 DEWS 報告の中で述べられており 196 、ドライアイの診断における重症度と特異性の詳細が、公開されたテンプレートと TFOS ウェブサイトで入手可能な追加資料において要約され、取り込まれている。 Behrens ら 226 は、 DEWS 管理と治療の報告 225 に加え、眼表面染色を眼表面疾患の臨床的診断における重要な診断基準として挙げている。

方法と詳細

眼表面染色の分類  複数の分類方法が報告されており、以下で議論する。

1. van Bijsterveld 227

2. NEI/Industry Schema 228

3. Oxford Grading System 229, 230

van Bijsterveld 1% ローズベンガルを 1 滴点入する。染色は角膜および 2 箇所の見えている結膜に関して 0 から 3 に分類される。(範囲: 0 ~ 9 )

シェーグレン症候群の診断に関するヨーロッパ/アメリカの基準 231 では、ローズベンガル溶液 2.5 μL を下眼瞼の円蓋に点入する。分類は van Bijsterveld 1969 に従う 227 。ローズベンガル染色の感度/特異性は以下の通りである。

NEI/Industry Schema Nichols ら 232 は、ドライアイ診断に改良した方法を用いた。スコア化する分割表は、角膜 5 箇所と結膜 2 × 3 箇所の領域を示している。スコアは、領域毎に 0 から 3 であり、 0.5 単位である。フルオレセインまたはローズベンガルを、対照群およびドライアイ群の被験者に、試験紙を用いて染色する。角膜と結膜の染色の間には強い一致が 認められる。

この検査の改良版には、 NEI/Workshop 分類法と Oxford 法( Oxford 第 2 法と称する)の特徴が取り込まれ 230 、 Tear Film and Ocular Surface meeting ( Taormina, Italy 2006 )にてポスターで発表された。その目的は、より細かいスケールを提供し、検査の実施を標準化することである。 NEI/Industry 法は修正さ

されていて、 (1) 記録する領域の大きさと部位が標準化され、 (2) パネル毎の数における上昇する密度を数学的に定義するランダムドットのパネルが作成されている。この (1) を行なうために、一連の 10 パネルが作成され、 1 つのピクセルは P = exp(0.9 ・ a )/exp(0.9 ・ b ) - k で表される確率で黒くなる。ここで、 a は現在のパネルの数であり、 b は最後のパネルの数+ 1 、 k = 0.00042 である。そのため、印刷されたパネル上のドットサイズは、眼表面上の染色点のドットサイズを見積もるものであり、そのパネルは、ワープロソフト( MSWord; Microsoft, Redmond, WA )で縮尺が調整される。そのためドットサイズは細隙灯で用いられた倍率で、上皮細胞の見かけの大きさを反映するものである。各領域の分類範囲は 1 から 10 である。したがって、点数化した領域の数は 2 × 3 箇所の結膜部分と 5 箇所の角膜部分であるため、分類幅は 0 から 110 となる。この方法についてはまだ検証されていない。

Oxford 分類法  この方法では、角膜と結膜 2 箇所の部分が評価され、評価スコアは領域毎に 0 から 5 である(全範囲は 0 から 15 )。観察者内試験では、 2 名の訓練を受けた眼科医が、異なる 2 回の機会に、一連の標準スライドを評価し、角膜と結膜のフルオレセイン染色を示している。観察者間試験では、同じ 2 名の観察者がフルオレセイン(青色励起、黄色フィルター)とローズベンガルを、 13 例のドライアイ患者で、 2 ~ 3 週の間隔で評価した。 k 値は、標準スライドの評価では、良いから非常に良いの範囲であった。ドライアイ患者では、 k 値は角膜に関しては非常に良いに分類されたが、結膜では平均に分類された 233 。

一連の検査の有用性を検討するために、さらに検討が行なわれている。例えば、ドライアイの診断時の、症状に関する質問票、眼表面染色、シル マー試験、フルオレセインクリアランステスト( FCT )、角膜知覚である。これらは DEWS ( 2007 )レポートで発表されたドライアイテンプレート中で混合検査( mixed tests )という見出しの下で要約されている。 Afonso ら 234 による研究では、眼刺激症状のある患者で、マイボーム腺脱落または開口部異形成がフルオレセインクリアランスの低下と有意に相関し、シルマー試験の結果と 逆相関があった。

付録 5

検査名:眼瞼の形態における MGD 所見

理論的根拠 MGD の分類は、臨床上の所見に基づくものである。最近の複数の分類では、機能的および微生物学的関連に基づく用語が用いられている 235-239 。 McCulley ら 240 は、慢性眼瞼炎の臨床的範囲は変化し、病原ブドウ球菌の、単独または脂漏性眼瞼炎と合併した場合の相対的罹患率が低下していることを示唆している。文献お よび臨床的には、合併性のマイボーム腺過剰分泌物(マイボーム腺排出物)や炎症(マイボーム腺炎)の有無に関係なく、脂漏性眼瞼炎の相対的罹患率は増加す ることが仮定されている。臨床的に用いられる用語は一貫しておらず、定義と分類に関する報告の具体的な目的は、用語を統一することである。それにもかかわ らず、臨床的には、原発性マイボーム腺炎は原発感染性のものではないようであり、脂漏性皮膚炎または酒さ性痊瘡と共にみられる一般的脂漏性腺機能障害の側 面を示している。このような実体は、治療法がなく、コントロールが必要な慢性疾患として認識されている。

腺房、導管または開口部に発症するマイボーム腺異常の形態的特徴を組み込むために、追加の検討が行なわれた 241 。 MGD の形態を意味のある分類にするには、眼瞼とマイボーム腺器の正常な解剖学的形態と、関連する加齢性変化を明確化することが重要である 242 。正常な眼瞼の性状は、後部眼瞼炎の形態的分類のための基礎を供するために使用することが可能であり、 MGD との良好な相関と、罹患した眼瞼の早期認識が可能となる。年齢を通した(幼児から老齢)眼瞼縁の臨床的性状変化について、以下に要約する 235-246 。

眼瞼縁  眼瞼縁の厚みは成人および小児では正常な範囲である。成人の眼瞼縁の厚みは、自由縁では 2 mm であり、前方側面に睫毛がある。小児の眼瞼縁の厚みは、上眼瞼で 1.43 mm ~ 1.63 mm 、下眼瞼で 1.41 mm ~ 1.61 mm である。青年期以降には、眼瞼の厚みは上眼瞼で 1.88 mm ~ 2.02 mm 、下眼瞼で 1.81 mm ~ 1.93 mm の間で厚くなる 242 。小児期以降明らかに生じる眼瞼の肥厚は眼輪筋の拡張に関係している可能性がある。思春期には、ホルモンが皮脂腺を拡張させ、マイボーム腺に影響を与える 可能性がある。

眼瞼の血管増生  小児の眼瞼は一般的に血管が少なく、末梢血管拡張、皮膚角質化亢進、および鱗屑性眼 瞼炎はみられない。小児期の眼瞼縁の血管増生の欠如は顕著であり、青年期以降の血管増生の増加は MGD の増加に続発する可能性がある。老齢期には、末梢血管拡張と皮膚角質化亢進は、下眼瞼で極めて一般的にみられる。これはおそらく、下眼瞼が紫外光などの種 々の傷害に曝露することが増加することを反映している。老齢期における上眼瞼縁の円形化の有病率の上昇は、生理学的知見として考えられておらず、下眼瞼で より一般的と考えられ、これは後部眼瞼炎および結膜下線維症と合併する。作業中の粉塵粒子への曝露、都市化、化粧品等の他の因子が重要な可能性がある。

睫毛  矢状断面の睫毛数は年齢と共に顕著には変化しない。しかし、身体の他の場所では体毛が消失するように、睫毛の消失が老齢患者で起きるというのが臨床的な印象である。

粘膜皮膚移行部 MCJ の位置はマイボーム腺開口部のすぐ後方で一定している。 MCJ は、眼瞼の前部 2/3 と後部 1/3 の移行部に存在するが、健常老齢者では不規則な形になる可能性がある。 MCJ の位置と形態の顕著な加齢性変化は全く記録されていない。変化は、疾患の状態、特に MGD 、酒さ性痊瘡、重度のアトピー性眼疾患で通常はみられる。

開口部  マイボーム腺開口部は、 MCJ のすぐ前方に位置する。開口部は円形で、まれに狭窄するかまたは突出し、開口部の閉塞または後方移動は起きない。これらは先天的に欠損し、下にある腺と合 併しており、ケラチンおよび剥離した上皮細胞によって閉塞され、障害を受け、または分泌せずに休止状態であるといわれてきた。プラギングは、最終的に、腺 と導管の萎縮を伴う開口部の閉塞に結びつく可能性がある。マイボーム腺開口部の狭窄化とパウティング( pouting )の頻度は加齢によって高くなることが示されている。パウティングは、慢性眼瞼炎で先に報告された所見である。開口部の狭窄化とパウティングはおそらく、 導管上皮細胞の肥厚化と角質化を示している。無症候性の人の開口部のパウティングは、加齢性の眼瞼特徴および MGD の初期の所見であるのかもしれない。開口部の狭窄化は加齢と共に増加し、それに伴う周囲を覆う上皮カフの形状の変化は、眼瞼縁の冠状面および矢状面で細胞 への圧力が不均一に分布していることを示唆する。開口部の閉塞は上眼瞼で年齢と共に顕著に増加する。これは、 MGD 、酒さ性痊瘡、トラコーマや瘢痕性類天疱瘡等の重度の粘膜疾患で報告されており、このような場合、続発性 MGD が発症するが健常人では発症しない。

主導管  腺自体は若年者では瞼板を通して黄色の線条として見ることができる。若年者には、マイボーム 腺開口部の眼瞼縁に主導管開口、および 50 本から 60 本の分枝導管があり、単一または複合の腺房につながる。これは変異した皮脂腺であり、上眼瞼には約 30 本、下眼瞼には約 20 本存在する。上眼瞼腺( 10 mm )は下眼瞼腺( 5 mm )よりも長い。

腺房  腺房はマイボグラフィーに関する章で説明する。

瞼板  下眼瞼の結膜充血は、老齢患者で発症頻度が高くなる。

分泌  加齢と共に分泌量は顕著に減少し、マイボーム腺分泌物を自由に圧出する開口部が少なくなる。し かし、その減少は通常、分泌物の混濁または粘度の上昇が伴わず、これらが疾患のマーカーを代表しており、結果的に MGD の場合のマイボーム腺開口部に典型的なプラギングが生じることを示唆している。

MGD における臨床上の解剖学的形態

眼瞼縁  眼瞼の肥厚はマイボーム腺疾患の一般的な所見であるが、前部縁が丸まった輪郭であるため測定 が困難である。後部縁から後部の睫毛のラインまでが最も良好に測定され、これらは相対的に一貫した眼瞼の特徴である。後部眼瞼縁の円形化はしばしば肥厚と 関連しており、眼瞼が眼球に対して正常に並列に位置する状態を妨げる。血管新生は年齢と共に増加する。 MGD では、開口部の外側のカフ、次に内側のカフの侵入による悪化がみられる。角質化亢進は皮膚の縁の湿疹状の性状であり、しばしば顔面の湿疹を伴うアトピーで 生じるが、アトピーではない被験者でも生じる。眼瞼縁の不規則性は細胞の吸収から生じ、多くの場合、消失したマイボーム腺開口部の領域に生じるが、瘢痕性 および潰瘍性の眼瞼疾患では、眼瞼構造全体のさらなる歪みの進行と共に生じることになる。

粘膜皮膚移行部 MCJ の部位と形態は MGD では変化していることがある。 MCJ は、その鏡面反射によって最も特定される。涙液メニスカスの前方縁の位置は健常な場合はそれに対応する可能性があるが、疾患の場合は、正確な目安にはならない可能性がある。

1. 前方移動  移行部は MGD では不規則になる。この粘膜は前方に広がることがあり、そのため開口部は粘膜組織内にあるようである。

2. 後方移動 MCJ の後方移動があり、瞼板上まで延長する後部眼瞼縁の拡大、角質化および扁平上皮化生がともなう。マイボーム腺開口部は MCJ と共に移動する可能性もしない可能性もあり、涙液油脂が涙液層の表面に運ばれるかどうかが決まることになる。後方移動は前方移動よりもさらに一般的であ る。

3. 粘膜吸収  これは、 MCJ の後方移動を伴わずに発生し、 MCJ と開口部はまだ、睫毛のラインから等しい距離にあるが、新たな後部眼瞼縁により近い位置に存在するようになる。

4. 隆起 MCJ または開口部間組織の隆起様の盛り上りが存在する。粘膜吸収の二次的作用でもある可能性がある。

開口部  開口部は MGD では複数の症状を表す。

1. 数  開口部は数が二倍になるか、減る可能性があり、これは先天的で、時には症候群の一部として、または MGD の後天的特徴となるものである。

2. キャッピング  点在する開口部は、表面が固い脂質で半球状に覆われていることがあるが、針の先で穴を空けて脂質 を放出させることができる。下にある開口部には潰瘍が形成され、蓋の部分は上皮化していることがある。キャッピングは通常、普段は働かない開口部だけに影 響し、その他では正常な眼瞼にみることができる。

3. パウティング MGD の初期の所見は、開口部の上昇またはパウティングであり、表面が赤くなることはない。この用語はおそらくプラギングと同義である。マイボーム腺開口部が拡張し、圧出によって、導管が乾固した分泌物または他の物質で閉塞していることが示されることがある。

4. 後方移動  この用語は、後部眼瞼縁が関与する瘢痕過程の結果を記述するのに用いられ、辺縁部粘膜に近い瞼板粘膜 内のより広範な瘢痕性の変化と関連する可能性がある。開口部は、眼瞼縁の面に対して適度な角度で、長円形に細長くなることがあり、後方移動によって導管の 露出を伴うことがある。

5. 閉塞性狭窄  開口部の穴は見ることができない。狭窄の性状には脂質の圧出性の欠落を伴う。開口部のカフの明確さの消失は、加齢と共に見られ、早期の MGD で見られる特徴である。血管性浸潤は明確さを失う過程を伴いうる。

6. 不透明の開口部  内部カフの不透明度が目立つようになる。不透明な開口部は通常よりも眼瞼縁でさらに見えるようになる。開口部の領域の瘢痕が生じることがあり、組織の消失と表面の陥凹を伴う。眼瞼縁でさまざまな退行性変化をしばしば伴う。

7. 導管の露出  導管が種々の程度で露出することは MGD に共通する特徴であり、隣接する粘膜下に不可逆的瘢痕過程が存在することを示唆している。導管は、眼瞼縁で開口部を形成するため、その側面を前後方向に向 きを変えるのが見られ、眼瞼縁表面で見ることができるようになる。外側のカフは視界から消え、内側のカフ(上皮内層)と半透明の領域(おそらく真皮層)が 横からみられる。早い段階では、導管は開存性で機能している可能性があるが、その後はそうでなくなる。この変化は、眼瞼縁にわたり数ミリメートル伸展する ことから、導管の伸展または瞼板の遠位部の吸収と関連しているか否かという疑問が生じる。

8. 導管の嚢状拡張  嚢状の拡張が導管の流れに沿って何処でもみることができ、これは、マイボーム腺の線に沿った、 濃くて丸い、または卵形の領域である。時には、伸展した、 1 つまたは複数のマイボーム腺の位置を占めるようにみえるたばこ型の構造があるが、導管の拡張と腺房の拡張を通常の方法で区別することは簡単ではない。拡張 し、歪んで、さらに短くなった腺は、マイボグラフィーと共焦点顕微鏡によって区別できることがある。

腺房  腺房は、加齢性および疾患関連性変化をうけやすい。

1. 可視性  前に述べたように、先天的に存在しないかまたは欠落した腺は、欠落した開口部として顕れる。腺房の存在 は、若年で非炎症性の眼瞼では容易に判断できることがあり、腺房の可視性は、瞼板の広範な照明によって見る場合、慢性の結膜性炎症が存在する場合と同じよ うに、年齢と共に低下する。観察は、マイボグラフィーによって改善可能である。腺の大きさの拡張または収縮は記録可能であり、癒着と霰粒腫が存在すること がある。

結石 は、マイボーム腺の線に沿ってみられることがあり、腺房内での石灰質の塩の沈着であると考えられる。霰粒腫の臨床 所見はよく知られており、まず、瞼板上で堅く、限局性で、無痛性の上昇が生じ、可視的で皮膚から触診でき、徐々に経時的に進行する。病変は、それが取って 代わる瞼板腺と一致し、対応する導管開口部は閉塞し、脂質が圧出されることはない。

3. 霰粒腫 は下眼瞼よりも上眼瞼の下に生じる頻度が高く、若年者よりも成人に多くみられる。単発性または多発性、お よび融合性の場合がある。眼瞼は翻転できないぐらいの十分な厚みがあることがある。複数の眼瞼が冒されている可能性がある。多発性霰粒腫は若年者、特に慢 性眼瞼結膜炎の病歴のある脂漏性の被験者で多く見られると言われているが、老齢者または酒さ患者にも発症する。

分泌過剰  マイボーム腺の分泌機能は、開口部の個々の群に関連して、瞼板を局所的に圧出することで間 接的に評価される。この手順は、指で圧迫するか、綿のチップ、ガラス製の棒、 Korb 圧出器具を用いて、正常な眼瞼であれば開口部の上に透明な油脂の円蓋を作る。 MGD において、このような方法で引き出すことができる圧出分泌物の質は以下の通りである。

1. 透明 (すなわち、正常)

2. 濁っている :散在して濁っている液状の分泌物

3. 粒状 : 通常は散在して濁っている液状の分泌物であるが、粒子状の物質を含む。この分泌物の色は白っぽい灰色から黄色である。

4. 濃厚 :半固形のプラグまたは練り歯磨き状の粘着性物質が、プラグまたは巻いた糸のようにして押し出されることがある。圧出は通常遅くなるか、余分な圧力が必要となる。この物質は角質化した上皮細胞を含む。

分類方法は、完全ではないが、自然経過と治療法の検討を目的とする上では、マイボーム腺と眼瞼の形態を詳細に評価できるだけの包括的なものである。 MGD の特徴を分類する目的は、それらを定量化する見込みが得られることである。

付録 6

検査名:マイボーム腺圧出性

理論的根拠  マイボーム腺の圧出はマイボーム腺機能の指標として実施できる。正常な患者では、指による圧迫を腺上にあてると透明から薄い黄色の油脂(マイバム)が腺から圧出される。マイボーム腺圧出性の変化は価値のある疾患の指標である可能性がある。

方法と詳細

特定のマイボーム腺が機能しているか、分泌できるかを測定する唯一の方法は、その腺から圧出される分泌物を観察することである。瞬目または 強制的な瞬目の間に個々の腺からの分泌物の流れを観察することはできないため、評価には、物理的な力を眼瞼外表に当てて、マイボーム腺を圧出し、一方で同 時に、マイボーム腺分泌の流出を検出する適切な倍率と条件で腺の開口部を観察する必要がある 247-263 。圧出には 4 種類ある。

1. 常習的なマイボーム腺機能を測定するための従来の診断的圧出 。これは、通常は、物理的な力や圧出時間の定量化は 特定せずに説明される。適用する力の説明は、弱いか強いかという説明に限られていた 256, 261, 263 。通常の手順は、眼瞼の内表面に強固な表面を必要としないような力で中央の腺を指の圧力で圧出するものである。通常は指を用いて圧出するが、スパーテル、 ガラス棒、へら等も用いられる 254, 256, 259, 264 。圧出は 10 から 15 秒間維持することが提案されている。

2. マイボーム腺機能を測定するための標準的力による診断的圧出 。これは、新たに開発された携帯式装置を用いて、約 1.25g/mm 2 (0.3 PSI) の力をかけて、意図的すなわち強制的な瞬目に際してマイボーム腺にかかる眼瞼の力をシミュレートし、個々のマイボーム腺の機能を測定する 264 。この装置は、下眼瞼の 1/3 すなわちおおよそ 8 腺を同時に圧出するように設計されている。この力をかける時間は、 10 から 15 秒間になるように標準化されている。この方式で、下眼瞼の 3 つの区画全てを評価することは有益である。標準的力による診断的圧出によって、「涙液層の機能として適切な油層を作るために最低限必要な腺の数」を測定で きる 265 。

3. 治療および腺機能回復が成功する見込みを測定するための診断的圧出 。この診断のために必要な力の大きさは、眼球 に力が移行するのを防ぐために、内部眼瞼表面上の強固な表面を用いることが必要になる程度であり、前分泌排出物(濃縮されたもの)が圧出される可能性があ る程度である。このプロセスは診断指標となるが、これは前分泌排出物が圧出可能であれば、腺は治療できる可能性があると考えられるためである。 Q-tips 、スパーテル、ガラス棒は眼形内側表面に適用するために用いられており、眼瞼外表面には通常指が用いられている。力の大きさは最近になって明確になったと ころである。力の大きさは患者が耐えることができる最大値、通常は 15PSI ~ 20PSI の範囲に近い値とされることが多い 266 。

4. 閉塞の治療および/または過剰分泌や膿形成等の望ましくない分泌物/排出物を圧出するための治療的圧出 。治療的 圧出には、その力で閉塞性角質化上皮物質と他の排出物を圧出できるか評価するために、眼瞼内部表面上の強固な表面を利用することが必要になる程度の力が必 要になる。 Q-tips 、スパーテル、ガラス棒が、眼瞼内部表面に用いるものとして報告されており、眼瞼外部表面には通常指が用いられている。力の大きさは明確ではないが、力の 大きさは患者が耐えることができる最大値、通常は 15PSI ~ 20PSI の範囲の値であるが、耐用性があればさらに大きい値でもよい 259, 266, 267 。

閉塞性 MGD は蒸発亢進型ドライアイの最も一般的な原因であると現在認識されている 256, 268-272 。閉塞性 MGD は明らかな眼瞼の炎症や眼瞼疾患の他の所見が伴うことはなく、見かけ上は通常の細隙灯検査では明らかにならないようになる。したがって、一般的集団では罹 患率が高いにもかかわらず、明確にはわからない閉塞性 MGD は、このタイプの MGD と関連する臨床所見で観察できるものはわずかであるため、通常は見過ごされる 56, 249, 272 。ゆえに、診断的圧出は、ドライアイの症状が存在する場合、明らかな眼瞼炎がない場合でも実施することが推奨される。これは、 MGD の最も罹患率の高い形態は明確な眼瞼炎がない状態で生じ、物理的な圧出でのみ検出可能であるためである。診断的圧出の後、マイボーム腺の治療が成功する可 能性を明らかにするための圧出を続けるべきである。治療的圧出は、適応があれば開始される可能性がある 249, 254, 268-272 。

正常な眼、ドライアイ、 MGD の眼における推定値

分泌物を産出するマイボーム腺の数と症状との相関をとっている研究は 3 試験のみであり、他の眼表面に関する知見と相関をとっている試験はない 250, 264, 273 。この 3 試験では、下眼瞼のみを検討している。指による圧出によって、中央の 6 腺から 8 腺のうち 4 腺以上が開いている場合、ドライアイの症状が起きる可能性は低い。標準化した力をかけて圧出する器具によって、中央の 6 腺から 8 腺のうち 3 腺以上が開いている場合、ドライアイの症状が起きる可能性は低い。眼瞼全体について、指による圧出によって、約 24 腺のうち 10 腺以上が分泌物を産出している場合、ドライアイの症状が起きる可能性は低い。眼瞼全体について、標準化した力をかけて圧出する器具によって、約~ 24 腺のうち 6 腺以上が分泌物を産出している場合、ドライアイの症状が起きる可能性は低い。逆に、~ 24 腺のうち分泌物を産出しているのが 4 腺以下の場合、ドライアイの症状が起きる可能性は高い。

感度および特異性

明らかではない閉塞性 MGD に関する感度および特異性のデータはない。感度および特異性が眼瞼炎におけるマイボーム腺機能に関して測定された試験が 1 つある。この試験では、以下のような感度/特異性データを報告している。すなわち、上眼瞼のマイボーム腺圧出 86%/73% 、下眼瞼に関しては 53%/66% ( McCann LC, et atl. IOVS 2008; 49: ARVO E-abstract 1532 )。

量および質

脂質の量  脂質の量は、指による圧力を下眼瞼に対して 5 秒間加えた後に細隙灯を用いて、半球状に圧出された脂質の平均直径をミリメーター単位で測定することで、半定量的に評価されている 263, 270, 274 。しかし、この評価では脂質の分泌を測定できるのみであり、これは半球状に形成される原因となる粘度に関するものである。望ましい脂質分泌は透明な液状の 脂質 249, 253, 254 で、半球状に形成しないものであり、このことが、本方法の使用を異常排出物または前分泌排出物に限定している。複数の文献からマイボーム腺の全容積に関す る情報が得られるが、そのデータはマイボーム腺の圧出性と機能に関する臨床的に重要な情報を提供していない 275-277 。さらに、脂質容積の間接的な評価は、マイボメトリーによって得られる 287, 279 。現在、マイボーム腺分泌物の量の全ての面に関しては、それを測定するには測定基準と方法の開発が必要であるといってもいいくらいである。

脂質の質  マイボーム腺脂質の種々の構成成分を分析している多くの研究があるが 280-284 、最適な油層の正確な特徴を測定するための明確な研究はこれまで公表されておらず、これは開発中の概念である。同様に、液状に対して、粘性が高い、練り歯 磨き状、球状といった粘性に関する修飾語句は臨床的には有用な可能性があるが、脂質粘度は標準化されていない 249, 253, 254 。

付録 7

検査名:マイボグラフィー

理論的根拠  マイボーム腺組織はマイボグラフィーを用いて画像化が可能である。したがって、腺萎縮を評価可能である。

方法と詳細

マイボグラフィーはマイボーム腺の形態を in vivo で観察して記録する技術である。マイボグラフィーに関して最初に発表された報告では、照明器からの白色光を翻転した眼瞼の結膜側にあてて、その画像を白黒 フィルム上に記録した 285 。最も基本となるバージョンでは、トランスイルミネーターからの白色光を翻転した眼瞼の皮膚側にあて、これによって、一旦眼瞼を翻転した結膜側からマイ ボーム腺の形態的変化の観察と記録が可能になる。その画像は、白黒フィルム 285, 286 、赤外線フィルム 287-289 、近赤外 CCD ビデオカメラ 290 または赤外 CCD ビデオカメラ 291, 292 上に記録される。この方法の最近のバリエーションでは、近赤外線 290 または赤外光源が用いられる 291, 292 。赤外線フィルターや赤外線 CCD ビデオカメラを用いた最近の研究では 292 、マイボーム腺は、翻転した眼瞼の皮膚側の上に光源を当てずに観察されており、このためマイボグラフィーが患者に優しい検査となっている。

観察可能な形態的変化には、腺の消失と腺の短縮が挙げられ、腺の短縮はスコアリング方法を用いて定量化可能である。さまざまな著者達は以下 のような異なるスコアリングスケールを用いた。 Mathers と Billborough 293 は腺の脱落を、下眼瞼の中央部 2/3 から消失する全体または部分的腺の数によってスコア化した。 Shimazaki ら 294 は、以下のスケールによって、下眼瞼のマイボーム腺の消失をスコア化した。グレード 0 (マイボーム腺消失なし)、グレード 1 (消失領域が観察された領域の 50% 以下)、グレード 2 (消失領域が観察された領域の 50% 以上)。 Pflugfelder 246 らは、以下のスケールによって、下眼瞼のマイボーム腺の部分的あるいは完全な消失をスコア化した。グレード 0 (マイボーム腺消失なし)、グレード 1 (消失領域が観察された領域の 1/3 以上)、グレード 2 (消失領域が観察された領域の 1/3 ~ 2/3 )、グレード 3 (消失領域が観察された領域の 2/3 以上)。 Nichols ら 290 は、以下のスケールを用いて腺脱落をスコア化した。グレード 1 (不完全な腺がない)、グレード 2 (不完全なマイボーム腺を含むのは画像の 25% 未満)、グレード 3 (不完全なマイボーム腺を含むのは画像の 25% ~ 75% の間)、グレード 4 (不完全なマイボーム腺を含むのは画像の 75% 以上)。 Arita ら 246 は眼瞼毎に以下のグレードを用いてマイボーム腺の部分的または完全な消失をスコア化した(マイボームスコア)。グレード 0 (マイボーム腺の消失なし)、グレード 1 (消失領域は、マイボーム腺の全領域の 1/3 未満)、グレード 2 (消失領域は、マイボーム腺の全領域の 1/3 から 2/3 、)、グレード 3 (消失領域は、マイボーム腺の全領域の 2/3 以上)。上と下の眼瞼に関するマイボスコアは、合計されて、眼毎にスコア 0 から 6 である。

以下に示すように、最近の研究では、マイボスコアに関する診断カットオフ値によって、正常な眼を閉塞性 MGD の眼と比較した場合、有望な感受性と特異性が得られている 292 。

付録 8

検査名: In vivo 共焦点レーザー顕微鏡

理論的根拠  共焦点レーザー顕微鏡によって、健常時および疾病時の眼表面の形状の in vivo における顕微鏡観察が可能になる。

方法と詳細

共焦点顕微鏡は、新たに出現した非侵襲的技術である。ドライアイ疾患と関連する多くの眼表面疾患と前部疾患の組織病理的な in vivo 評価のための、補完的診断ツールとして有用であり、

眼球結膜および眼瞼結膜とマイボーム腺の in vivo 検査を含む 296-305 。 MGD に関係する研究では、新世代の共焦点顕微鏡である HRTII-RCM ( Heidelberg Retina Tomograph II-Rostock Cornea Module; Heidelberg Engineering GmbH, Dossenheim, Germany )の Rostock Corneal Software Version 1.2 を用いて in vivo 共焦点レーザー顕微鏡術が実施されている。まとめると、上側および下側の眼瞼を翻転すると、 cetrimide ( Comfort Gel, Bausch&Lomb, Berlin, Germany )で保存した 2 mg の Carbomer gel を塗布した Tomo-Cap の中央を眼瞼結膜上に圧平するように当て、その押し当てたレンズを、細かく垂直方向に動きながら眼瞼縁から円蓋部にむけて動かす間、マイボーム腺がスキャ ンされる。押し当てたレンズが細かく水平方向に動きながら眼瞼全長に沿って動く間、マイボーム腺もスキャンされる。後の解析を簡便にするために、耳側が わ、中央部そして水平方向の眼瞼を、付属のサイドカメラでスキャンし、いずれのシーケンスが眼瞼縁中のいずれの解剖学的位置に属するのかを記録することが 推奨される。各眼瞼の検査時間は約 5 分である。接触による患者の不快感を低減するために、点眼による局所麻酔が行なわれる。患者の不快感および本検査に関係するあらゆる有害事象は観察、報告 されていない。


MGD の検査では、最長および最短の腺房単位直径、腺周囲炎症性細胞密度、腺房単位密度が推奨され、マイボーム腺の経常的変化を評価する十分有効なパラメーター であることが分かった 304, 305 。腺房単位密度および炎症性細胞密度は内部ソフトウェアを用いて、測定可能である。明確に見ることができる腺房ユニットを、全て 400 × 400 μ m のフレーム内でカウントし、腺房密度は 1mm 2 当たりのユニット数として示される。最長および最短の直径( μ m )は、 Image J ソフト(作成 Wayne Rasband, National Institutes of Health, Bethesda, MD; http://rsb.info.nih.gov/ij/ index.html )を用いて計算可能である。鼻側、中央および耳側がわの下眼瞼の 3 つの無作為化された、非オーバーラップ、高品質デジタル画像(眼瞼毎に全 9 画像以上)を、共焦点顕微鏡パラメーターの計算に用いることが可能である。最近の報告では、腺房ユニット密度と直径が、 2 つの有望な新規の共焦点顕微鏡パラメーターのようであり、単純性 MGD の診断と評価において有用であると考えられている 304 。

In vivo 共焦点顕微鏡は、 MGD における phenotype の変化を記録する上で有用であることが報告されている。 MGD における phenotype の変化とは、例えば、上皮下線維症、マイボーム腺開口部の閉塞、導管の嚢状拡張、腺ユニットと導管中の脂質性/腺性分泌物の蓄積である 305, 306 。炎症性細胞密度も、同様に、進行性閉塞性 MGD において治療反応を評価するための、 in vivo 共焦点顕微鏡の新規の有望な診断パラメーターのようである。別の最近の研究で、複数の腺周囲炎症性細胞が、健常な対照被験者の眼瞼にみられた(被験者 10 例 20 眼。平均年齢 66.4 ± 8.9 歳。 in vivo 共焦点顕微鏡による平均炎症性細胞密度 50 ± 30 細胞/ m 2 )。閉塞性 MGD で治療前の患者の眼瞼中炎症性細胞数は、健常対照被験者と比べておおよそ 10 倍から 30 倍高いことが認められた。このような観察から、炎症性閉塞性 MGD と非炎症性サブタイプを区別する上でのこの新規の方法の可能性と、異なる治療プロトコールの主要評価項目として評価できる可能性が示唆された 305 。このパラメーターに対する注意は、 in vivo 共焦点顕微鏡の現在の解像度では、樹状細胞と多形体以外に炎症細胞のサブタイプを区別することが出来ない事である。この新規の方法を用いた in vivo および ex vivo の所見は、この欠点を克服できる可能性がある。圧出性グレード 2 以上( Shimazaki グレード)とマイボーム腺脱落グレード 2 ( Shimazaki :眼瞼全体に沿って 50% 以上の腺消失)がみられる MGD の診断で、先に述べた共焦点顕微鏡によるパラメーターの適用性を試験する上で、最近では受診者動作特性( ROC )曲線解析が、パラメーター毎の感度、特異性、カットオフ値を示すのに使用されている。この研究 307 では、単純性 MGD 患者 20 例の右眼 20 眼(女性 11 例、男性 9 例。平均年齢 63.5 ± 16.5 歳、範囲: 30 ~ 99 )と健常対照被験者 26 例の右眼 26 眼(女性 13 例、男性 13 例。平均年齢 53.2 ± 15.7 歳、範囲: 32 ~ 78 )を解析した。個々に、各共焦点パラメーターは、 MGD の診断に関して許容できる感受性と特異性があることが観察されており、これは重要な観察であると考えられる。軽度の MGD の診断に関するこのようなパラメーターの感度と特異性をさらに検討することで、貴重な情報が得られるであろう。さらに、このパラメーターは涙液の安定性、 生体染色スコア、涙液蒸発速度、マイボーム腺の圧出性および腺消失の臨床的グレード分けとよく相関しているようである。

MG 腺房ユニット密度( MGAUD )のカットオフ値が 70 units/mm 2 未満に設定される場合、曲線下面積( AUC )は 0.91 、パラメーターの感度および特異性はそれぞれ 81% と 81% である。炎症性細胞密度のカットオフ値が 300 cells/mm 2 未満に設定される場合、 AUC は 1 である。その検査の感度および特異性はそれぞれ 100% 、 100% である。 MGD の診断における MGLD ( MG 最大直径)、 MGSD ( MG 最小直径)に関するカットオフ値が 65 μ m 未満および 25 μ m 未満に設定される場合、 AUC はそれぞれ 0.93 、 0.97 である。このようなカットオフ値の下、パラメーターの感度および特異性は MGLD でそれぞれ 90% および 81% 、 MGSD ではそれぞれ 86% および 96% である。

マイクロピペットで 1 μ L の 1% フルオレセイン溶液を点入する涙液安定性検査またはフルオレセイン染色と腺房ユニット直径( MGAUD )を組み合わせると、感度が大きく変化することなしに特異性が高くなるようである。涙液安定性検査またはフルオレセイン生体染色検査による MGAUD を組み合わせても、感度の大きな変化なしに特異性が高くなる。

付録 9

検査名:マイボメトリー

理論的根拠  眼瞼縁の随時脂質レベルはマイボメトリーによって測定可能である。

方法と詳細

マイボメトリーは、眼瞼縁でのマイボーム腺脂質の定常レベル(随時レベル)の間接的な評価法として、 Chew らが 1993 年に